
最近書いた文章です。
大雪山 アースデイ・フレンドシップトレッキング
Hokkaido Hikes代表のBush Pigにガイドしてもらい実現した旭岳から美瑛岳までの9日間の縦走の旅。今回の旅で感じたことは、水の大事さと、真のコミュニケーションの大事さ。
水の大事さについて。
Bush Pigは10年間大雪山を愛し続け、冬の大雪山にも一人で入るほどの山のサバイバルのプロだ。縦走初日朝、持って行く道具の説明をしてくれた。緊急キットがきちんと整理されて小さなバッグに収まっている。そしてその他の道具の中で目を引いたのは水ポンプだった。
トレッキングのメンバーは総勢9名で、内5名がニュージーランド、アメリカ、カナダ人という国際色豊かなチーム。9名を3名づつの3班に分けて、順番に食事、後片付け、そして水汲みを担当した。
北キツネの糞が運ぶ疫病のエキノコックスを防ぐ為に、水は常にフィルター付きポンプで汲み上げる。9名が晩御飯、朝御飯で使う約14リットルを汲み上げるのには半時間程かかる。
縦走最初の6日間は、常にキャンプ地近くに雪解け水の川が豊富に流れていた。冷たくて美味しい。
縦走7日目。朝6時にトムラウシ山のキャンプ地を出発。標高が下がり、緑が濃くなってきた。尾根伝いに歩く。素晴らしい景色。気温も上がり、幾つもの峠を越えて汗だくになる。
午後1時、その日のキャンプ地、双子池キャンプ場に到着。暑い。そこは火山岩がゴロゴロしている山の中腹で、川の水が乾いている。先に着いていた神戸の大学のワンゲル部の学生さんに聞くと、歩いて20分程の湖で水を汲み、煮沸しているとのこと。
唖然とした。昨日まで当たり前の様にあったあの豊富な雪解け水がもう無い。山の状況は峠を2-3個越えたらどんどん変わってしまうことを実感。縦走7日目で食料をセーブしていて、空腹を抑えながら辿り着いたキャンプ場での水枯れの事実にメンバー一同、力が抜ける。
木陰も無く暑い。喉が渇く。アフリカやインドで水が無い人達のことを考えた。普段は想像でしかないその状況が、その時は身を持って感じることが出来る。こんな水不足の状況が日常である生活。当たり前の様に何時でも水が飲める生活に感謝せずにはいられなくなる体験だ。
その後、前の峠ですれ違った人の情報を基に、キャンプ場をもう少し登った処に水溜り大のチョロチョロと雪解け水が溜まる水場を発見。ポンプで汲み上げ、ゴクゴクと喉を潤す。。
次の日の朝、その水場はもう干上がっていた。又昼過ぎには雪解け水が小さな水溜りを創るだろう。
その日以降、皆、少ない水を大事に使い、山を抜けた。
もう一つ。真のコミュニケーションについて。
携帯の電池が2日目で切れた。手動のラジオ兼携帯充電機も壊れてしまい、3日目からは携帯の無い生活になる。
思えば、四年弱の放浪の旅を終えて帰国して以来の二年間、携帯を肌身離さず持っていた。常にあったものが無くなり、最初は心細くなる。
3日目以降の1週間、携帯を触らないことで、今まで如何に携帯に振り回されていたかを実感する。誰かと一緒に居るのに、ピコピコとメールを打ち、常にポケットに携帯が無いと不安な生活。
9日間の間、4カ国から集まった9名全員の意識は常にそこにあった。皆と一緒に居る時も携帯を覗き込み、そこに居るのに意識は彼方に飛んでいることは無い。それは当たり前のことだけど、今の社会ではなかなか実現し得ない貴重な体験だった。
山から降りたら携帯を手放そうかと、歩きながら何度も考えた。携帯があるお陰で、歩きながら沢山の方に連絡が取れて、思わぬタイミングで知人を紹介してもらうなど、お陰でこの旅が豊かで楽しいものになっている。
携帯が無くなったら、コミュニケーション量は一気に減るだろう。でも、質は上がるのではないか。そんなことを大自然の中を歩いて考えた。
携帯のおかげで何時でも何処でも気軽に連絡が取れる。手紙を認める代わりにメールを打ち、思いを馳せる前に電話をする。インスタントなコミュニケーションにはその分、心が籠もりにくい。
今の日本で、9日間、全くの大自然に居ることが出来るのは、大雪山の縦走くらいかもしれないとふと思った。そんな環境に国籍の違う最高の仲間達と一緒に居られたことに感謝しながら山を降りる。たった9日間ではあるが、9人の仲間が今では旧知の友の様に感じる。
ドライブインに続く最後の砂利道。ここを抜けたら又、文明社会に戻る。なんだか住み慣れた田舎を離れるような気分で山を離れ、ドライブインのコンセントに、9日ぶりに携帯の充電器を差し込んだ。
翌日、イオン旭川店の食堂で従業員の方々にお話する機会があった。大雪山を愛する男、ブッシュピッグが山を楽しむ心得として最後に言った言葉は僕の心に響いた。
「山を敬う気持ちはそのまま山に伝わり、山が貴方を敬い返してくれます。」
16年間地球を歩き、木を植えているポール・コールマン氏が同じことを言っている。「木を植えて地球に愛を与えると、地球はその何倍もの愛を返してくれる。」
3年前からポール氏と活動を共にして、今年元旦からは単独で日本を歩き、木を植えて、僕も同じことを実感し始めている。
大雪山はアイヌ語では「カムイミンタラ」(神々の遊ぶ庭)と言われている。「神々の遊ぶ庭」で僕は大雪山を愛する最高の友に出逢うことが出来た。